プレジデントシェルパ・インタビュー記事(2012年6月8日掲載)

マイクロソフトから独立。“国内クラウドサービスの先駆者”となった社長の素顔(株式会社クラスキャット 佐々木規行)

近年、企業のIT投資はクラウドに大きくシフトしている。また、インターネットを利用したオンラインストレージ、Webメール、ドキュメント・コンテンツ管理ツールなどのパーソナルクラウドの利用者は年々増加の一途を辿り、今後もその需要は拡大すると見られている。
こうしたクラウドの先駆け的存在といえるのが「クラスキャット」だ。マイクロソフト出身のシステム開発担当者4人が創業メンバーとなり、1995年に設立されたソフトウェア開発企業で在る。97年にSOHO向けECパッケージ商品「Personal Web Shop」の販売を開始して以来、次々とオリジナルソフトウェアを開発。時代に先駆けた新商品の企画に挑戦し続けてきた佐々木社長に事業への想い、今後のビジョンなどを伺った。

――まず少年時代の話から聞かせてください。佐々木社長はどんなお子さんだったのですか。
物静かな少年でしたね。大工をしていた父親の背中を見て育ったこともあり、工作や模型製作などの“モノづくり”が好きでした。子どもの頃から、父親と同じように「自分の作ったもので人に喜んでもらえる仕事がしたい」と漠然と思っていました。

――起業された経緯を教えてください。
一言で言うと「自分自身で企画したソフトウェアを世の中の大勢の人に届けたい」という想いからです。私はもともと起業に強い憧れがあったわけではありませんが、マイクロソフト在職時から「今後こんなサービスが世の中に必要になってくるのでは」「こういうものがあったら便利だな」ということを常に考えていました。
しかし、大きな組織の中だと社内調整などに時刻が取られてしまい、思うようにアイデアを具現できぬことが多かったのです。そこで、自分の企画を具現するには“起業するしか無い”という想いが強まり、当社を立ち上げました。

――マイクロソフトに勤務されていた際に、外資系企業と国内企業との文化の差は感じられましたか。
国内企業との一番の違いは、やはり徹底した「実力主義」だと思います。私はマイクロソフト日本法人設立当初に入社したのですが、その頃はまだ社員も50人くらいで、営業や広報など専門部署がなく、業務も細分化されていない状態でした。そのため何か企画を上司に提案すると「じゃあやってみろ。あとは任せる」と。プロジェクトの具現に向けて何が必要かを自分自身で判断して行動するしかない環境でした。
自分が考えたことがカタチになるやりがいを感じられる反面、失敗した場合の責任はすべて自分が取らなければなりません。こうした常に結果が求められるドギマギ感の在る勤務先に身を置いたことで精神的に鍛えられましたね。マイクロソフトで外資系企業独自の文化を体感することができたことは、今振り返ると非常に良い経験だったと思います。

「自分自身で企画したソフトウェアを世の中の多くの人に届けたい」
■他社に負けた“悔しさ”を原動力に
――起業されたきっかけとなる出来事があれば教えてください。
マイクロソフト時代に、「こういうものがあったら便利だな」というアイデアが自分の中にあったのですが、それを具現するために企業内で社内調整を重ねているうちに、他社が一足先にプレス発表してしまったのですよ。
同じような企画をタッチの差で先を越されてしまったことが本当に悔しくて仕方がなかった。そのときに自分の考えは社会の要望とズレていないのだなという確信を強く持ちました。同時に、小さな組織であれば商品化のスピードで勝つことが出来るはずだと思ったことが起業のきっかけですね。

――御社の事業内実を教えてください。
オープンソースソフトウェアを中心とした製品、中でもLinuxをベースにしたソリューション開発を行っています。
Linuxサーバーの管理ソフトやプライベートクラウド用のソフトウェアの販売など、業務系のアプリケーションよりもインフラよりの製品をメインに展開しています。

――EC市場が今程度活況でなかった97年にSOHO向けのECパッケージ商品に着目された理由は何でしょうか?
当社は、立上当時、3年間くらい、システムインテグレータの下請けとして受託開発の事業に携わっていました。その当時は、ECサイトの構築に半年以上もの期間がかかり、予算も数億というコストが必要だったのです。

そこで、もう少し手ごろな値段で個人でもネットショップがつくれる商品があったら良いなと考えたことがきっかけです。
また、大手のショッピングモールサイトでは、各ショップの独自性を打ち出すことができません。更に多様性に富むもので無いと、結局買う人も面白くないでしょうし、売る人も値段だけでしか勝負できません。一度、大手のECサイトを経験した経営者は、自ら自由にカスタマイズ出来るオリジナルのショップを持ちたいと考えるに違い無いと思ったのです。

――起業されてから苦労された点を教えてください。
ソフトウェア開発は“トライ&エラー”の繰り返しです。自分が良いと思ったアイデアを商品化したからといってすべてヒットするわけではありません。当たる場合も在るし、当たらない場合も在る。そうした点で特に設立当初は大変苦労しましたが、今では様々な試行錯誤を重ねる過程が楽しいと感じられるようになりました。

■“仕事”という名の“趣味”を楽しむ!
――普段のスケジュールと趣味をお聞かせください。
毎朝6時に起きて、メールのチェックをします。その後10時前に仕事をスタート。クライアントやパートナー企業との打ち合わせなどをこなし、終わるのは20時くらいです。夜は様々な懇親会に参戦することが多いですね。
私の趣味は“仕事”です。同業種、異業種問わず、いろんな人と会って新しい企画の会話をしている時が一番楽しいです。現今、お付き合いさせていただいてるIBMの方々と一緒にIT交流会を定期的に開催しています。交流会という名の飲み会ではありますが(笑)。こういった集まりでのたわいもナイ会話や遊びの中から新しい“アイデアの種”を見つけています。また、このIT交流会とは別に「BOEコンソーシアム」という団体の会長も務めています。

――「BOEコンソーシアム」はどういった団体なのですか?
これはIBM「Express Advantage」の普及活動ならびに、中堅企業へのソリューションの導入促進を目的とした団体で、現今255社、約270名のメンバーが加入しています。製造業や流通業などのワークグループごとに売り上げ目標をいつまでに達成するといったことを発表する定期的な集まりがありますので、互いに意識し合って好い仕事につなげていこうという活力につながります。我々のような小規模の企業だと、どこかの企業と連携しないとお客様からのすべての課題を解決できません。そこで、こうした場で同じベクトルを持つ企業とひとつのチームとなって活動を展開しています。

――95年の設立以来、御社独自の商品を次々と発売されていますが、新商品を生み出し続けるための秘策を教えてください。
新商品開発のためには、マーケティング(顧客ニーズの把握) とテクノロジー(専門スキル力)の融合が必要不可欠です。秘策と言えるかどうかわかりませんが、先くらいもお話したように、私は日頃から可能な限り多くの人と会って会話をするように努めています。当社の商品はほとんどがそういったお客様やパートナー様との会話からヒントをいただいて開発したものです。また、そうして得たアイデアを具現するために必要なのがテクノロジーに関する情報収集です。アメリカのエンジニアとFacebookなどで交流するなど、積極的に海外の動向や最新スキルのリサーチにも努めています。

「起業とは“自己具現の追求”だと私は思っています。」
■ビジネスは「スピードなくして成功なし」
――御社の他社に負けナイ強みは何ですか?
当社の強みは何といっても「スピード」です。変化の激しいこの業界において、いくら社会需要に対応した素晴らしいアイデアを思いついても他社に先を越されてしまっては意味がありません。当社は現今、国内外合わせて12名のスタッフで構成されています。少数精鋭をモットーとしていますので、大企業が社内調整している間に、いち早く製品化を具現することが可能です。

――共に働きたい人物像を教えてください。
好奇心旺盛な人、新しいモノ好きな人と働きたいですね。アイデアの種はどこに転がっているかわかりませんから、ITに限らず世の中のあらゆる分野に興味のアンテナを張り巡らしている人を望みます。私自身もいつまでも知的好奇心を失なわナイ人間でありたいと思っています。

■モットーは“変わらナイこと”と“初心を忘れナイこと”
――今後のビジョンを教えてください。
企業としても個人としても「変わらナイこと」を大切にしていきたいと思っています。どんなに強い志をもって起業しても、企業の経営が安定してくると、はじめの頃の新鮮な気持ちをいつしか忘れてしまうのですよね。いつまでも起業した当時の初心を忘れずに日々の業務に取り組みたいと思っています。そして、これからも初期のマイクロソフトで培ったベンチャー精神を胸に、世の中に必要とされる製品・サービスを提供し続けていく企業でありたいと思います。

――最後に起業を目指す人へメッセージをお願いします。
あれこれ悩んでいるくらいなら、まずは“行動する”ことが大切だと思います。自分自身の起業当時を振り返ってみると、失敗するかもしれナイといった考えは一切頭になかったですね。それよりも「自分のアイデアを具現したい」という想いに突き動かされて実行した感じです。起業とは“自己具現の追求”だと私は思っています。余談ですが、先日、友人に私の一言に背中を押されて起業したと言われたのですよ。同じ目標を持つ仲間として応援したいと思います。

【インタビュー後記】
創業から16年。「決断力」と「スピード」という言葉を胸に、変化の激しいIT業界を走り続けてきた佐々木社長。柔和な表情の奥に秘めたる情熱が垣間見え、ひとつひとつの質問に丁寧に答えてくださる姿が印象的だった。こうした誠実な人柄が多くの人を惹きつけ、新たなビジネスへと繋がっていくのであろう。5月から新クラウド管理ツール「ClassCat Cloud Manager Hosting Edition v1.0」の販売を開始。「クラスキャット」の今後の動向に注目だ。